中小企業の退職金の相場は?中小企業に合う退職金制度を解説

中小企業の退職金の相場は?中小企業に合う退職金制度を解説

「退職金制度の導入を考えているが、どの制度を選んだらいいのか」とお悩みの中小企業経営者の皆様も多いでしょう。経営者の視点からすると、福利厚生制度の中でも退職金制度は運用・管理にかかるコストが大きいため、導入には慎重にならざるを得ません。

本記事では、中小企業の退職金の相場を紹介したうえで、4つの退職金制度を解説します。自社に合った退職金制度を見つけるための参考にしてください。

1.企業が退職金制度を導入するメリット

退職金制度は、勤務した年数や在職期間中の功績などに応じて従業員に退職金を支給する制度です。企業が退職金制度を導入するメリットには、主に以下の3つがあります。

・人材獲得、人材の維持(離職率低下)につながる
・早期退職を促す施策として活用できる
・節税効果が期待できる

退職金制度は法律で義務付けられているものではありませんが、退職金制度があれば人材獲得において有利になり、離職率の低下を回避できる可能性があります。

また、事業の不振や著しい業績低下により、従業員の早期退職を促さざるを得ない状況になったときに、従業員とその家族の生活を守る意味でも退職金制度は大切なものといえるでしょう。

さらに、退職金制度への掛金は所得控除できる点で節税効果も期待できます。

2.中小企業と大企業の退職金の相場┃退職金制度

従業員が退職金をもらうためには、一定年数の勤務期間が必要になります。

また、中小企業の退職金は大企業より少ないケースが多いです。中小企業のなかでも成長分野に早期参入した企業や財務面で優良な企業でなければ、大企業と同等の退職金を出すのは難しいでしょう。

以下では、退職金の相場と退職金制度を導入している企業の割合を見ていきましょう。相場については、各企業の財務事情など多くの要素が影響するため、あくまで参考とお考えください。

2-1.中小企業の退職金の相場

東京都産業労働局の2022年版「中小企業の賃金・退職金事情」によると、中小企業で定年まで勤続した場合の「モデル退職金(学校を卒業してすぐ入社した方が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)」の相場は下表の通りです。

モデル退職金を見ると大学卒が最も多く、従業員数が多いほど退職金は多くなる傾向が伺えます。

2-2.大企業の退職金の相場

厚生労働省が大企業を対象に実施した「2021年賃金事情等総合調査」によると、大企業の退職金の相場は下記の通りです。男性の平均退職金額で、学校卒業後にすぐ入社して同じ企業で定年退職(満勤勤続)したケースです。

・大学卒は勤続35年:1,903万円、満勤勤続:2,230万円
・高校卒は勤続35年:1,746万円、満勤勤続:2,018万円

退職金は高校卒より大学卒が多くなり、勤続年数が長くなるに従って多くなる傾向が伺えます。この調査における大企業の定義は、資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上の企業です。

2-3.退職金制度の導入割合

退職金制度は、企業規模により導入割合が異なります。厚生労働省が実施した「2023年就労条件総合調査」によると下記の通りです。

・企業全体:74.9%
・1,000人以上の企業:90.1%
・300~999人の企業:88.8%
・100~299人の企業:84.7%
・30~99人の企業:70.1%

大企業ほど退職金制度の導入割合が高く、中小企業になると導入割合が低いことが分かります。

3.4つの退職金制度のうち中小企業に適した制度を知ろう

退職金制度には、大別すると以下の4つがあります

①確定給付企業年金
②社内で準備する退職金
③中小企業退職金共済(中退共)
④企業型確定拠出年金

上記の4つのパターンが多いものの、退職金制度自体は義務ではないため、退職金制度がない中小企業もあります

以下では、どの制度が中小企業に合うのか見ていきましょう。

3-1.①確定給付企業年金

確定給付企業年金は、従業員が受け取る給付額が約束されている制度です。確定給付企業年金には、規約型企業年金と基金型企業年金の2種類があります。

規約型企業年金は、企業から委託を受けた信託会社や生命保険会社などが資金の運用・給付を行い、企業が運用の責任を負う制度です。

基金型企業年金は、企業年金基金が資産の運用・給付を行います。

確定給付企業年金のメリットは、従業員にとっては給付額が確定しており、加入者として生命保険料控除が適用できる点です。

一方で、確定給付企業年金のデメリットは、運用実績が低調な場合や企業業績が悪化した場合には年金給付減額の可能性があることです。その場合、会社は約束された給付額への補てんを行う必要があり、経営者サイドからみると財務リスクを伴います。

3-2.②社内で準備する退職金

社内で準備する退職金は、企業が内部留保として退職金原資を積み立てる制度です。一時金で支払う場合が多いため、退職一時金と呼んでいる企業もあります。

社内で準備する退職金のメリットは、退職金制度の設計にあたっての自由度が高いため、企業としての独自性を盛り込めることです。

一方で、社内で準備する退職金のデメリットは、従業員が一時期にまとまって退職すると事業資金が圧迫されるリスクがあることです。また、景気悪化により会社の利益が減少した場合、内部留保も減少して退職金が用意できない恐れがあります。

資金面に余裕のある大企業であれば、事業資金が不足するリスクには対応できる可能性が高いでしょう。

3-3.③中小企業退職金共済(中退共)

中小企業退職金共済(中退共)では、中小企業の事業主が中退共との間で退職金共済契約を締結します。中小企業の事業主は毎月の掛金を金融機関に納付し、退職時には中小企業退職金共済(中退共)から退職金が従業員に直接支払われる制度です。

中小企業退職金共済(中退共)のメリットは、新たに中退共に加入する事業主や掛金月額を増額する事業主には、国から掛金の一部を助成する制度があることです。

また、事業主からの掛金を損金に算入可能で、60歳未満でも退職金を受け取ることができることもメリットといえます。

一方、中小企業退職金共済(中退共)のデメリットは、原則として従業員の全員加入が条件である点です。ただし、期間を定めて雇用される従業員などは除きます。また、加入のために中小企業の要件を満たす必要があるほか、法人の役員は加入できません

その他には、1年未満の退職掛金は掛け捨てとなることや、勤務期間が2年未満の場合は元本割れのリスクもあります。

さらに中退共に加入している従業員は、社会福祉施設職員など退職手当共済制度への加入ができないため、注意が必要です。

3-4.④企業型確定拠出年金

企業型確定拠出年金は、企業が従業員ごとに毎月の掛金を拠出して、従業員が自ら年金資産を運用する制度です。

企業型確定拠出年金には、①掛金拠出時②運用時③受給時3つの段階で課税の優遇措置があります。

①掛金拠出時:所得税・住民税が非課税、掛金は社会保険料の対象外
②運用時運用益が非課税
③受給時:一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除の適用

企業型確定拠出年金を導入した場合の、企業、経営者、従業員のメリットを以下の通りまとめました。

【企業】
・費用を予測しやすい
・退職給付債務が発生しない
・運用の負担がほぼ発生しない
・全額損金扱いとなり、法人税の節税が可能
・従業員の定着率の向上、新規採用の拡大など人事面のプラス効果に期待

【経営者】
・役員も加入できる
・社会保険料や税金の節税効果あり
・資産形成が可能

【従業員】
・インターネットから運用状況・資産残高の確認が可能(「退職金の見える化」)
・離職・退職時に転職先の企業型確定拠出年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)への移管が可能
・社会保険料や税金の節税効果あり
・資産形成が可能

一方で企業型確定拠出年金のデメリットは、以下の点が挙げられます。

・原則60歳まで脱退することができない
・運用によっては老後資産が減る可能性がある
・労災保険、失業保険、傷病手当金、出産手当金、老齢年金の金額が減少する

それでも企業型確定拠出年金では経営者も加入できるため、役員の資産形成にもつながります。企業としては掛金拠出時の負担はあるものの、運用負担がほぼ発生しない制度です。

また、退職金の原資の用意が難しい場合には、給料の一部を掛金として拠出できる「選択制DC(選択制企業型確定拠出年金)」を使うこともできます。企業としては掛金を新たに負担する必要がなく、使いやすい制度といえます。

選択制DCでは従業員は「掛金拠出」と「全額給与」を選べるため、制度導入に関する従業員の理解も得やすく、従業員への負担も比較的少ないといえるでしょう。

4.まとめ

退職金制度には、人材獲得および人材の維持、節税効果といったメリットがあります。退職金制度には、主なものとして確定給付企業年金・企業型確定拠出年金・社内で準備する退職金・中小企業退職金共済(中退共)の4つがあります。

制度によって、企業および従業員が得られるメリットが異なるため、各制度の特徴を把握したうえで、自社に適したものを選択しましょう。

特に企業型確定拠出年金は、中小企業退職金共済(中退共)と異なり、役員が加入できる制度となります。また、役員、従業員ともに運用による資産形成が可能です。

「自社に適した退職金制度を、さまざまな視点で検討したい」という方は、ぜひ当社マウンティンまでご相談ください。当社は、これまでに500社を超える企業に対し、企業型確定拠出年金の導入支援実績がございます。 

役員の資産形成や節税の観点もふまえて、企業型確定拠出年金のメリットについて説明いたします。

この記事を書いた人

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白井 章稔

CFP® 社会保険労務士                                      中小企業への企業型確定拠出年金導入を得意とする。自身も企業型確定拠出年金の加入者の1人として、毎月資産の積立・運用を行う。企業型確定拠出年金導入セミナー講師、従業員説明会の実績、多数。

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