企業型確定拠出年金は、年々加入する企業が増えている年金制度です。節税しながら従業員の資産形成を支援できるとして、多くの経営者や人事担当者から注目されています。
しかしながら、仕組みがわからず「実際のところ節税にならないのでは」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業型確定拠出年金が節税になる理由について、詳しく解説します。月額30万円や役員報酬100万円を受け取っている場合の節税シミュレーションを掲載しているので、節税効果を数字でイメージできるようになります。
これまで企業型確定拠出年金が節税になる仕組みがわからず、導入を踏みとどまっていた企業担当者の方は、この記事を判断材料の一つとしてご活用ください。
【結論】企業型確定拠出年金は節税になる!
冒頭でもお伝えしたように、企業型確定拠出年金は節税になります。ここでは、企業型確定拠出年金とは何か、確定給付年金との違いや、中小企業こそ導入すべき理由を解説します。
既に理解されている方も、再確認としてぜひご覧ください。
企業型確定拠出年金とは?
企業型確定拠出年金とは、企業が掛金を拠出し、加入者である従業員が資産運用を行う制度です。
老後の資産形成を支援するために国が設けた制度で、原則として60歳以降に運用してきた資産を年金や一時金として受け取ることができます。
掛金の積立、運用、受け取り時に手厚い税制優遇があるため、効果的に資産形成が行えるのが特徴です。従業員はもちろん、掛金を積み立てる企業にとっても節税効果があるとして注目を集めています。
企業型確定拠出年金についての説明は、こちらの記事に詳しくまとめています。概要や個人型確定拠出年金(iDeCo)との違い、導入メリットを解説していますので、ぜひご覧ください。
▶︎企業型DC(企業型確定拠出年金)とは?導入に迷っている人事担当者必見
確定給付年金との違い
企業の年金制度には、企業型確定拠出年金だけでなく「確定給付年金」があります。
確定給付年金は、退職時に給付する年金額を確定する制度です。つまり、企業は従業員に年金をいくら給付するかを保証することになります。
この制度では、企業が掛金を拠出するだけでなく、運用まで担います。しかし、従業員の退職時に運用成果が約束した金額に満たなければ、企業は不足分を追加で拠出する必要がある点がデメリットです。
そこで、年金の「給付額」を保証するのではなく、毎月の掛金である「拠出額」を保証する企業型確定拠出年金への関心が高まっています。
二つの年金制度の違いを表にまとめると、次のとおりです。
企業型確定拠出年金 | 確定給付年金 | |
概要 | 拠出額が確定している | 給付額が確定している |
運用者 | 加入者である従業員 | 企業 |
低金利が続くなか、給付額を保証する確定給付年金では企業側の負担が重くなっているのが現状です。
そこで、従業員が自ら運用する企業型確定拠出年金の導入や移行を検討する企業も増えています。
中小企業に確定拠出年金が求められる理由
中小企業に確定拠出年金が求められている理由は、退職金の確保が難しいからです。大企業では総額人件費の中に退職金が確保されていますが、同じように準備できる中小企業は多くありません。
退職金が支給されない、または十分な額ではない場合、従業員は自ら老後資金を蓄える必要があります。そこで企業型確定拠出年金を導入して、毎月企業が掛金を積み立てて従業員が運用を続ければ、老後資金を準備できるようになります。
中小企業の福利厚生として活用できるので、企業のイメージアップや採用力アップ、人材定着率のアップにつながるのがメリットです。
さらに、企業型確定拠出年金には節税効果もあり、従業員と企業の双方にとって魅力的な制度といえます。
どのような節税効果があるか、具体的には次の章で解説します。
1.【従業員】企業型確定拠出年金の節税効果・メリット
企業型確定拠出年金を導入すると、従業員と企業の双方に節税効果やメリットがあります。ここではまず、従業員側の節税効果やメリットを3点解説します。
従業員が企業型確定拠出年金を利用したときの節税効果・メリット
- 所得税・住民税が低くなる
- 従来の金融商品より受け取り額が多い
- 受け取り時も優遇措置がある
1-1. 所得税・住民税が低くなる
企業型確定拠出年金を利用すると、税金(所得税・住民税)が低くなります。その理由は、掛金は非課税であり、給与扱いとならないからです。
税金(所得税・住民税)は給与に対して計算されるため、給料から掛金が差し引かれると税金負担が軽減します。
例えば、給与が25万円の従業員が、毎月1万円を掛金として拠出した場合、年間の節税効果はどのくらいになるか見てみましょう。
拠出前と拠出後の税金額(所得税・住民税)を比較すると、後者に7,600円の節税効果があることがわかりました。
さらに、負担が軽減されるのは税金(所得税・住民税)だけではありません。社会保険料も年間で34,092円低くなっています。
「節税額7,600円」と「社会保険料の軽減額34,092円」を合わせると、年間で約4.2万円の負担軽減につながります。
1-2. 従来の金融商品より受け取り額が多い
投資信託や株式など従来の金融商品を運用した場合より、企業型確定拠出年金を利用した方が受け取り額が多くなります。その理由は、運用益が非課税であるためです。
通常、金融商品では運用益に20.315%の税金がかかります。例えば株式の配当金として1万円が生じた場合の受け取り額を見てみましょう。
配当金10,000円ー(10,000円×20.315%)=7,969円 |
このように、金融商品の受け取り金額は7,969円となりますが、企業型確定拠出年金では1万円をそのまま受け取れます。つまり、金融商品と比較すると2割以上の節税効果があります。
掛金を何十年も積み立てて運用していくことを考えると、企業型確定拠出年金を利用した方が資産残高が大きくなる可能性が高いと言えます。
1-3. 受け取り時も優遇措置がある
60歳以降に給付金を受け取る場合も、税制面で優遇措置を受けることができます。受け取り方には、「年金」と「一時金」の2種類があり、組み合わせて受け取ることも可能です。
年金として受け取る場合は給付金は「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」の税制優遇があり、次のように計算できます。
雑所得=公的年金等の収入金額-公的年金等控除額 |
また、一時金として受け取る場合は、給付金は「退職所得」として扱われ「退職所得控除」の税制優遇が受けられます。
退職所得=(退職金等の収入金額-退職所得控除額)×1/2 |
控除額は確定拠出年金の加入期間によって変わります。受け取り方や給付額は老後のライフプランや収入と合わせて考える必要があるため、税理士など専門家へ相談することをおすすめします。
2.【企業】企業型確定拠出年金の節税効果・メリット
企業型確定拠出年金を利用すると、企業にとってどのような節税効果やメリットがあるのでしょうか。ここでは2点解説します。
企業が企業型確定拠出年金を利用したときの節税効果・メリット
- 法人税の支払額が少なくなる
- 社会保険料の折半額が少なくなる
2-1. 法人税の支払額が少なくなる
企業型確定拠出年金では、全額損金として計上することができます。損金を計上すると、法人の利益が減るので、法人税の支払額が少なくなります。これが法人にとっての節税効果です。
企業が毎月拠出する掛金は「福利厚生費」として扱われます。税法上、福利厚生費は損金扱いとなるのが原則です。
2-2. 社会保険料の折半額が少なくなる
企業が拠出する掛金は所得扱いされず、社会保険料の算定対象外となるため、折半額が少なくなるのもメリットです。
従業員を雇用している企業が要件を満たした場合、社会保険に加入しなければなりません。社会保険料は、従業員と企業が半分ずつ負担する労使折半が採用されています。しかし、社会保険料は増加傾向にあり企業の負担は増えるばかりです。
そこで企業型確定拠出年金を導入し、給与から掛金が差し引かれると、社会保険料の算定に用いられる給与額が低くなります。社会保険料の折半額も少なくなるため、節約できるようになります。
3. 企業型確定拠出年金の節税シミュレーション
ここまでは企業型確定拠出年金を導入した場合の、従業員と企業の節税効果やメリットを解説してきました。
では、実際にどのくらい節税効果があるのでしょうか。月給30万円、役員報酬100万円のケースでシミュレーションし、節税効果を確かめました。
こちらの動画では、報酬別の加入シミュレーションをお伝えしています。企業型確定拠出年金の節税効果をイメージできるようになるので、ぜひご覧ください。
▶︎簡単解説!今すぐ加入すべき企業型確定拠出年金のメリット!【拠出効果編】
3-1. 月給30万円の場合
出典:簡単解説!今すぐ加入すべき企業型確定拠出年金のメリット!【拠出効果編】|YouTube
まずは月額30万円の従業員が、毎月2万円を拠出した場合を見てみましょう。
拠出額2万円は非課税であるため、給与から差し引いた28万円に対して税金を計算します。「所得税+住民税」の項目を見ると、1,740円の節税となっていることがわかります。年間の節税効果は、次のとおりです。
1,740円×12カ月=20,880円 |
さらに、社会保険料も含めると月額の控除合計は4,796円です。年間では約6万円の拠出効果となることがわかります。
1年間で約6万円と聞くと大した金額には思えないかもしれません。しかし、同じ給料の従業員が10人いて、10年間積み立て続けた場合を考えると、高い効果があると言えます。
4. 全体としての節税効果を高める方法
ここまで解説してきたように、企業型確定拠出年金は節税になることがわかりました。次に、従業員の節税効果をさらに高めるために、二つの方法を解説します。
全体としての節税効果を高める方法
- マッチング拠出の利用
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)の併用
4-1. マッチング拠出の利用
マッチング拠出とは、企業が拠出する掛金に加えて、従業員が掛金を上乗せできる制度です。上乗せした掛金も非課税となるので、さらに節税することができます。
ただし、企業がマッチング拠出を導入していなければ、従業員はこの制度を利用できません。さらに、従業員が上乗せする金額は、企業の拠出する掛金を超えてはいけないという条件があります。
また、確定給付年金など他の企業年金を併用していなければ、企業型確定拠出年金の上限は5.5万円です。マッチング拠出を利用するときは、掛金の合計金額が上限を超えないよう注意が必要です。
4-2. 個人型確定拠出年金(iDeCo)の併用
個人型確定拠出年金であるiDeCoを併用することで、節税につながります。iDeCoとは、個人が加入する確定拠出年金です。
2022年10月に確定拠出年金法が改正され、企業型に加入している従業員もiDeCoへの加入が原則として認められるようになりました。改正前は、併用するには企業から同意を得る必要がありましたが、次の条件を満たす場合は、企業の同意がなくともiDeCoの併用ができるようになりました。
iDeCoとの併用が認められる場合
- 企業型確定拠出年金の掛金が5.5万円以内
- iDeCoの掛金が2万円以内
- 上記❶+❷が5.5万円以内
- マッチング拠出を利用していない
改正後は、企業型確定拠出年金の掛金が少ない従業員が、iDeCoの利用で掛金を増やせるようになりました。
iDeCoも企業型と同様に、掛金は所得控除の対象となり、運用時は非課税で、受け取り時には税制優遇があります。併用して運用することで、節税しながら老後資産を形成できるのがメリットです。
5. 企業型確定拠出年金のよくある質問
企業型確定拠出年金の導入を検討する経営者や人事担当者の方から、よくいただく質問をまとめました。質問と回答をご覧いただき、導入に向けた検討材料としてぜひご活用ください。
企業型確定拠出年金のよくある質問
- 従業員の理解が得られない。節税効果をどのように説明すればいい?
- 業績が伸びてきたので節税したい。一人社長でも利用できますか?
5-1. 従業員の理解が得られない。節税効果をどのように説明すればいい?
企業型確定拠出年金の節税効果を知り、導入しようとしても従業員から反対されるケースです。
反対される理由として、「制度がよく理解できない」「節税にならないのではないか」といった声が従業員からあがることがあります。解決法としては、次の2点が考えられます。
- 投資教育を継続して実施する
- 選択制の企業型確定拠出年金を導入する
確定拠出年金は比較的新しい制度で、制度についてよく知らないという従業員もいるでしょう。そこで、導入時だけでなく継続して投資教育を提供することが大切です。
新入社員はもちろん、中途社員や既存社員に年金制度や投資について学ぶ機会を提供すると、マネーリテラシーが向上します。
それでも全員の賛同を得るのが難しければ、選択制の企業型確定拠出年金を導入しましょう。選択制では、従業員が確定拠出年金に加入するか自ら決めることができます。
反対する従業員を強制的に加入させる必要がなくなるので、理解を得やすくなります。
5-2. 業績が伸びてきたので節税したい。一人社長でも利用できますか?
起業して売上が立ってきたので、節税方法を調べている方からは、次のような質問をよくいただきます。
- 一人社長でも利用できますか?
- iDeCoか企業型か、どちらに加入する方が節税になる?
まず、一人社長で従業員を雇用していない場合でも、企業型確定拠出年金に加入できます。また、マイクロ法人など小規模の企業であっても、厚生年金保険の適用事業所であれば導入をすることができます。
一人で会社を運営している場合、個人でiDeCoのみを利用した方が節税になるのではと考える方もいらっしゃるでしょう。
結論を言うと、一人社長でも企業型に加入した方が節税効果が高くなります。その理由は、企業型の方がiDeCoより掛金の上限が高いからです。
企業型の上限金額(他の企業年金を利用していない場合) | 月額55,000円 |
iDeCoの上限金額(他の企業年金を利用していない場合) | 月額23,000円 |
掛金が多い方が税制優遇のメリットも大きくなるため、節税効果を高めるには企業型が選ばれています。
また、法人の場合は法人の経費にしながら社長個人に積み立てができます。個人の場合は、課税後の手取りから積み立てをしなければならないため、法人と個人とでは節税効果が大きく異なります。
節税効果の高い企業型確定拠出年金を導入しよう
本記事では、企業型確定拠出年金の節税効果について解説しました。
従業員にとっては拠出時、運用時、受け取り時に優遇措置があり、企業にとっては法人税の支払額が抑えられるなど、双方にメリットが大きい制度です。シミュレーションでどれくらい節税できるかお伝えしたため、「節税にならないのではないか」という不安が払拭された方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際の計算を経営者や人事担当者が行うのは難しいものです。そこで、専門家にシミュレーションをしてもらい、導入後どれくらい節税になるかアドバイスを受けることが大切です。
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